企業はさまざまな形で顧客との接点を持っている。ここで企業と顧客との間のコミュニケーションとして、どんなものがあるか、考えてみよう。
新聞・雑誌の記事やテレビやラジオの番組などの広報活動、企業の広告やWebサイトなどは、真っ先に思い浮かぶだろう。しかしそれだけではない。顧客と接するセールスの行動や言動、コールセンターのオペレーターの対応、企業が出している投資家向け情報なども含まれる。さらに企業が自社用にデザインしている封筒やブランドロゴ、自社ビルのデザイン、店舗の設計、商品のパッケージングなど、顧客の目に触れるものも多い。社長がテレビや新聞などで話すメッセージも、顧客や市場に対して大きな影響力を持つ。
これらのコミュニケーション活動を、企業理念や企業戦略に基づいて一貫性と整合性を持たせて実施しよう、という概念が「IMC」だ。
IMCとはインテグレーテッド・マーケティング・コミュニケーションの略で、「統合型マーケティングコミュニケーション」とも訳される。顧客とのすべてのコミュニケーションを、企業戦略と連携させて実施する、という考え方だ。
例えば広告や新聞記事等のそれぞれのコミュニケーション活動を個別に考えていては、IMCは実現できない。クールビズの事例のように、全体をカバーする骨太な戦略の下で、すべてのコミュニケーション活動が設計され、実施されなくてはいけない。
しかし骨太な戦略があるだけでも、実は不十分なのだ。その戦略は、常に顧客中心の視点を持っていなければならない。
省エネルックの事例を思い出してほしい。クールビズがターゲット顧客であるビジネスマンにとっての価値を十分に考え抜いていたのに対して、省エネルックは十分に考えられていなかった。ターゲットとなる顧客を絞り、顧客の課題やニーズをいかにくみ取っていくかが、マーケティングコミュニケーションのカギだ。
顧客は必ずしも自分自身で課題やニーズを認識しているわけではない。だから顧客がそれを明確な形で説明してくれることはない。市場分析や顧客分析を通じて、顧客自身が気づいていない、顧客に関する洞察を得ることが大切なのだ。
繰り返し述べている通り、マーケティング戦略のプロセスのすべてが、出発点から一貫性を持って顧客視点で連携していることが重要なのだ。
久美ちゃんとの会話で出てきたとおり、顧客とコミュニケーションの手段は大きく分けて6つある。それぞれが異なる特性を持つ。
この組み合わせがマーケティングコミュニケーションミックス、略してコミュニケーションミックスだ。これら6つのコミュニケーション手段の特徴は、次の通りだ。
万能なコミュニケーション手段はない。特性を把握して組み合わせることが必要だ。例えば、顧客が購買活動を起こす場合は、
商品を認知→商品を理解→商品の価値を確信→商品を注文→商品を再注文
という段階を経る。このうち、広告と広報は「認知」と「理解」の段階でもっとも有効だ。セールスは「確信」と「注文」の段階で力を発揮する。一方で、「再注文」で効果を発揮するのは「販売促進」だ。
マーケティングコミュニケーションでは、市場や顧客、商品のタイプやライフサイクルを考慮して、これらをいかに組み合わせて予算を配分し、効果をあげるのかを考えていくのだ。
(注)本書に掲載された内容は永井孝尚個人の見解であり、必ずしも勤務先であるIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。
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日本アイ・ビー・エム株式会社ソフトウェア事業部にて、マーケティングマネジャーとして、ソフトウェア事業戦略を担当。グローバル企業の中で、グローバル統合の強みを生かしつつ、いかに日本に根ざしたマーケティング戦略を立てて実践するのか、格闘する日々を送っている。アイティメディア「オルタナティブ・ブログ」の「永井孝尚のMM21」で、企業におけるマーケティング、ビジネススキル、グローバルコミュニケーション、及び個人のライフワークについて執筆中。9月29日に新著「朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力」を出版。過去の著書に「戦略プロフェッショナルの心得」がある。
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