誠 じゃあ、改めて久美ちゃんに質問だ。広告で目立つだけでいいと思う?
久美 うーん、省エネルックって、30年前なのにわたしでも名前をなんとなく覚えているくらいだから、すごく目立ったんですよね。でも、定着しなかったんですよね。
誠 広告で大きな話題になっても、ほとんど売れなくて消えていった商品って、結構あるよね。理由は省エネルックが普及しなかった理由と同じで、この6つのプロセスがしっかりと連携していなかったということだ。じゃあ、クールビズはなんで流行ったと思う?
久美 最初の「ターゲットの明確化」から、最後の「コミュニケーションミックスの決定」のところまで、6つのプロセスが全部つながっていて、ブレがないですよね。
誠 ほかに省エネルックと違う点はあるかな?
久美 ちゃんと実際に着るビジネスマンのことも考えて手を打っていますね。
誠 そういうことだ。
久美 うーん、6つのプロセスをキッチリとブレなくつなげて、しかも常に顧客中心で考える、ってことですね。こう考えると、私が考えていたTRAPのメンバーの広告で話題性を取れるだけじゃぁダメなんですね。
久美は、どこが悪かったか、どう変えればいいか、納得できたようだ。
誠 もう一度、プロモーションのデザインを考えてみるといいよ。でも6つのうち、例えば「ターゲットの明確化」はすでに久美ちゃんは考えているし、「メッセージ」の中心になる価値もすでに定義しているから、ゼロからの作業ではない。
久美 あ、そうか。ゼロから考えるのではなくって、既に考えていることをどのようにつなげていくかを、考えればいいんですね。
誠 基本的な戦略はしっかりしているんだから、その延長線上で考えればいい。むしろ戦略との連携は必須だから、そうすべきだね。
久美 なんか、とってもやる気が出てきました。誠おじさん、ありがとうございます。
誠 じゃあ、今日はこのへんで。あ、今年は最後だね。よいお年を。
久美 誠おじさんも、よいお年をお迎え下さい
カフェを出ると、すでに日が昇っていて冬の日差しが強くなっていた。
もうすぐ今年1年も終わりだ。
世の中には数えきれない広告が氾濫している。その1つ1つが思いを込めて作ったもので目立つものも多い。このような中でマーケティングコミュニケーションを行うには、単に人の目に触れるだけでは不十分だ。価値があるものと顧客が認識できることが重要だ。
顧客に狙い通り価値を伝えるためには、発信者である企業から、受け手である顧客がそれを認識して行動を起こすまでの一連のコミュニケーションプロセスについて理解する必要がある。
この流れは、次のようになる。
注意すべき点は、復号化と価値認識のプロセスは、顧客の潜在意識と価値観によって異なる、ということだ。世の中の人々の価値観は、多種多様だ。コミュニケーション戦略で顧客ターゲットを絞り込むのは、このターゲットとなる顧客の価値観を絞り込むことにほかならない。ターゲットの顧客の価値観を想定できれば、企業が伝えたい価値観をターゲットとなる顧客に正しく伝えることができ、期待する行動を促せるからだ。
言い換えると、企業がマーケティングコミュニケーションを行う際には、メッセージの中に伝えたい価値をどのように込め、そのメッセージがどのように顧客に届き、どのように顧客が自分にとって価値があると認識するのかを十分に考慮する必要がある。
一方で、目立つことだけを考えて作ったメッセージや、ターゲットの顧客が価値を認識できないようなマーケティングコミュニケーション活動は、決して成果を上げることはない。
ここでの価値は、バリュープロポジションの定義などを通じて考えられた価値に基づくものだ。つまり、マーケティングコミュニケーションは、戦略と一貫性を持って実施する必要があるのだ。
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