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「慢心せず、さらに力を引き出す」 スパコン「富岳」世界一、理研理事長らが決意表明 コロナ対策などにフル活用

» 2020年06月23日 18時18分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

 「世界のトップに立ったからといって慢心することなく、さらに力を引き出せるよう努力する」――富士通と共同開発したスーパーコンピュータ「富岳」が演算速度など4項目で世界トップと評価されたことを受け、理化学研究所の松本紘理事長は6月23日の記者会見でこう強調した。

photo 記者会見に臨む、理化学研究所の松本紘理事長(右から2番目)、計算科学研究センターの松岡聡センター長(左から2番目)ら

 富岳は6月22日(中央ヨーロッパ時間)に発表されたスパコン性能の世界ランキング「TOP500」最新版で、TOP500(演算速度)、HPCG(シミュレーション計算)、HPL-AI(AIの学習速度)、Graph500(ビッグデータの処理性能)の4部門で首位を獲得。先代の「京」が中国製マシンの台頭によって首位陥落して以来、約9年ぶりにトップに返り咲いた。

 富士通の時田隆仁社長は「日本の技術力の強さ、ものづくりの強さを世界に示すことができた。富岳には社会課題の解決に貢献するという大変重要な使命がある」と手応えを示した。

photo 理化学研究所の松本紘理事長(=左)、富士通の時田隆仁社長(=右)

コロナ対策などにフル活用

 富岳の運用開始は2021年の予定だが、新型コロナウイルス研究においては実用化を1年早め、研究機関などに計算機能を提供済み。理研も神戸大学などと共同で、室内での会話やくしゃみによる飛沫の動きをシミュレーションし、「感染を防ぐには、オフィスのパーティションの高さは140cmが効果的」といった成果を発表している。

 21年以降は新型コロナ対策の他、医療、エネルギー、防災、モノづくりなどの発展や課題解決に向けた研究を推進する。「製薬や太陽電池(の研究開発)にも活用し、富岳があることによってはじめて国民に届けられるような成果を上げたい」と、理研 計算科学研究センターの松岡聡センター長は意気込んだ。

photo 世界一になったスーパーコンピュータ「富岳」

京から進化したポイントとは

 こうした多様なジャンルの研究に役立てられる他、AI活用やビッグデータ分析といった最先端の用途に対応できる汎用性が富岳の強みであり、京から進化したポイントだという。

 「京の消費電力性能は優れておらず、GPUのような特化型プロセッサや汎用CPUを下回っていた。AIなどの新しいアプリも動かせなかった。これを克服するため、富岳は圧倒的な省電力を実現しつつ、チップ1つ1つの性能を同世代のCPUの3倍に高めた。ARM製CPUを採用し、数百億個のソフトウェアが動くようにもした。PowerPointも富岳の上で動く」と、松岡センター長は自信を見せた。

5冠は逃すも「それほど差はない」

 ただし富岳は今回、スパコンの消費電力性能を示すランキング「Green500」では1位を逃した(首位はPreferred Networksの「MN-3」)。その要因も、さまざまなソフトウェアが動き、多様なジャンルの課題解決に生かせる汎用性の高さを追求したためという。

 松岡センター長は「消費電力性能は汎用性が高くなればなるほど不利だ。そのため(他社には)2割ほど負けているが、実質的な運用面ではそれほど差はない」とし、「世界で最も汎用性の高いマシンを創れたと自負している」と力を込めた。

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