コロナ禍で露呈 あなたは「人間性を疑う」上司やパートナーと居続けるべきか非常事態が問うもの(2/4 ページ)

» 2020年05月21日 08時00分 公開
[真鍋厚ITmedia]
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極限状況で見えてくる「人間性という物差し」

 しかし、それを軌道修正するにはあまりにも時間と労力を要することを理由に、なるべく視界に入らないように問題を棚上げ、もしくは後回しにしていたのです。けれども緊急事態宣言が発令され、感染者の増加と有名人・著名人の訃報、重症化のリスクと死の不安がさまざまなメディアによって拡散、増幅され、政府の無策と失態による被害が着実に拡大し、「生命の危機」を意識せざるを得なくなる中で、誰もが多かれ少なかれ「人間性の危機」に直面することになりました。

 ある者は一向に改善されない就業環境に業を煮やして職を辞し、ある者は信頼していたパートナーが理解や協力に消極的だったことから、その後の関係が修復不能なほど気まずいものになりました。振り返ってみると、このような局面は3・11(東日本大震災)でも起こっていました。

 「すべては、その人がどういう人間であるかにかかっている」と高らかに宣言したのは、ナチスの強制収容所の生き証人で、実存分析(ロゴセラピー)の創始者であるV・E・フランクルです。彼は、終戦直後のニヒリズムや悲観主義に対する返答としてこう述べたのです。

 強制収容所での有名なエピソードがあります。ナチスの親衛隊員である収容所の所長が、ひそかに自分のポケットマネーで囚人のために薬を購入していたのです。他方、同じ収容所では、最年長者の囚人が、囚人仲間を「ぞっとするような仕方で」虐待していました。

photo 『それでも人生にイエスと言う』(V.E.フランクル著、山田邦男・松田美佳訳、春秋社)

 フランクルは、この経験を踏まえ「最後の最後まで大切だったのは、その人がどんな人間であるか『だけ』だった」と主張します(V.E.フランクル『それでも人生にイエスと言う』山田邦男・松田美佳訳、春秋社)。この真理は現代においてもまったく変わるところがありません。コロナ禍という未曾有の混乱を前にして、「人生も、健康も、幸福も……すべてが疑わしいものになり」「すべてが、裸の実存に還元され」るのです(前掲書)。

 わたしたちは自他ともにますます「人間性」という物差しを避けて通ることが困難になります。そのような視点から眺めれば、悪いことばかりではありません。

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