Nutanixは、名実ともに「ハイパーコンバージドインフラ専業ベンダー」から脱皮した「非破壊的で破壊的」な存在を目指す

Nutanixは、以前より「ハイパーコンバージドインフラ(HCI)を超える」と主張してきたが、2017年6月の発表で、とうとう周囲の人たちも、同社を「HCI専業スタートアップ企業」とは呼べなくなってきた。さらに同社は、「非破壊的でありながら破壊的になる」ための新たな取り組みを明らかにしている。

» 2017年07月12日 05時00分 公開
[三木泉@IT]

 Nutanix CEOのディーラジ・パンディ氏は以前筆者に、「非破壊的でありながら破壊的になれるかどうかが重要だ」と語っていた。同社が2017年6月末、年次カンファレンスのNutanix .NEXT Conference 2017で発表したアプリケーション視点のクラウド管理ツール「Nutanix Calm」と、Googleとの提携により提供予定のクラウドサービスは、この点で象徴的だ。

参考記事:
Nutanixが発表したクラウドサービスや多数の新機能をまとめてみた
NutanixがGoogle Cloudと連携、複数の切り口でハイブリッドクラウドを実現へ

HCIベンダーからソフトウェアベンダー、クラウドベンダーに

 上記2つの発表につながることとして、まず取り上げたいのはビジネス面での新たな展開だ。

 Nutanixは「ハイパーコンバージドインフラ専業スタートアップ」として出発。当初は自社でハードウェアとソフトウェアが一体化したアプライアンス製品を提供した。その後、これを継続したままで、ソフトウェアのOEM提供を始めた。最初にOEM供給先となった主要サーバベンダーはDell(現Dell EMC)で、その後Lenovoなどにも対象を広げた。

 Nutanixが.NEXT Conferenceで大きく取り上げたのは、その後の動きだ。同社はCisco Systems、続いてHewlett Packard Enterprise(HPE)のサーバに対し、ソフトウェアの提供を始めた。

 CiscoやHPEはNutanixと、OEM契約もソフトウェアについての提携も結んでいない。つまりNutanix側の「勝手サポート」であり、これはエンタープライズITの世界に慣れた者にとっては奇異にも映る。だが、Nutanix関係者に聞くと、CiscoおよびHPEは、サーバ本体については当然ながらサポートを提供せざるを得ない。問題は、障害が発生した場合の対応だが、切り分けはNutanix側が行うことになるという。日本ではシステムインテグレーターで、Nutanix on CiscoあるいはNutanix on HPEをサポートすると表明する企業が出てきており、こうした企業が大きな役割を果たすだろうという。

 確かに顧客が不便を感じないのであれば、「勝手サポート」であっても関係はない。パンディ氏は今回、筆者に「これで一般企業が利用するサーバの大部分をカバーできることになった」と話した。

 例えば「導入するサーバはHPE」と100%決めている企業に対して、DellやLenovoにNutanixのソフトウェアをOEM供給しているから買ってくれと言っても、企業側は聞く耳を持たないことが考えられる。CiscoおよびHPEのサーバの「勝手サポート」を加えたことで、基本的にほぼ全ての一般企業にとって、Nutanixのソフトウェアを検討しない理由はなくなる。

 対象サーバを広げることは、Nutanixにとってビジネスリスクの低減にもつながる。OEM、特にDell EMCへの依存は、同社がハイパーコンバージドインフラで最大の競争相手の1社であることを考えると、今後減らせるに越したことはない。

 ユーザーにはもっと注目すべきことがある。CiscoおよびHPEのサーバについて、Nutanixは完全にソフトウェアベンダーとして振る舞える。そこで、Nutanixは今回、この2社のサーバについては、同社のITインフラ基盤ソフトウェアである「Enterprise Cloud OS」のライセンスを、ELA(Enterprise License Agreement)およびサブスクリプション形式で提供すると明らかにした。これによりユーザーは、Nutanixソフトウェアの利用方法について、より多くの選択肢を持てることになる。

CiscoとHPEのサーバに関しては、ソフトウェアベンダーとして振る舞う

 もっとも、こうしたモデルを、例えば2年前にNutanixが思い付いていたとしても、当時実現することは難しかっただろう。以前はVMware vSphereの利用が前提となるケースがほとんどだったからだ。

 Nutanixは今回、同社のKVMベースのハイパーバイザー「Acropolis Hypervisor(AHV)」の利用率が約4分の1に達したことを明らかにした。同社にとって最大の顧客は、1750以上のノードを、100%AHVで動かしているという。AHVの利用が前提の顧客に対しては、Enterprise Cloud Platformを完結したソフトウェアとして提供できる。このため、AHVの利用が広がるほど、同社は独立したソフトウェアベンダーとしての主導権を取りやすくなってくる。

 その次の手に、パブリッククラウドとしての提供がある。Nutanixは今回、Google Cloud Platform(GCP)上で同社のソフトウェアスタックを動かし、これを従量課金で使えるサービス(以下では便宜上、「Nutanix on GCP」と呼ぶ)を2018年第1四半期に提供開始すると発表した。パンディ氏は、「同様なことをやりたいと話しているサービスプロバイダーが他にもある」と言い、Nutanix on GCPが順調に進んだ場合、他の事業者との協業によるクラウドサービスを検討するつもりがあるとしている。

 ユーザーにとっては、Nutanix on GCPの登場によって、資産としてNutanixベースのアプライアンスを持たずに、経費として使った分だけ料金を支払うという消費手法が加わることになる。

 一方、Nutanixとしては収益源の多角化を図れることになる。同社CTOのスニル・ポッティ氏は筆者に、「将来、OEM、ソフトウェア、サービスが3分の1ずつの収益構造に近づけていきたい」と話した。

「クラウドサービスとしてのNutanix」の提供が始まる

 Nutanix on GCPは、VMwareがAmazon Web Services(AWS)との提携で2017年夏にも提供開始する「VMware on AWS」に似ている。どちらも、まずは既存の企業ITシステムを対象とし、いわゆる「リフト・アンド・シフト」、すなわちアプリケーションの改変や運用手法の変更なしに、社外データセンターへ移行できることをメリットとして押し出そうとしている。

 ただし、VMware on AWSがホステッドプライベートクラウド(サーバを単一ユーザー組織で占有する)であるのに対し、Nutanix on GCPはハードウェアとひも付かないパブリッククラウドだという。

 こうしたサービスを提供するからといって、多くのユーザー企業が即座に飛びつくわけではない可能性を、Nutanixは認識しているようだ。そこでNutanix on GCPではまず、ディザスタリカバリー(災害復旧)サービスから提供するとしている。

 Nutanixのソフトウェアには、「ワンクリック・レプリケーション」の機能がある。Nutanixソフトウェア(を動かすサーバ)を複数拠点に配置すると、その間で、(1クリックとはいかないが)数クリックにより、アプリケーションの仮想マシンと仮想ディスク(データ)を定期的に自動複製する設定ができる。この機能では、近い将来1分間隔での複製を実現するという。

 これをベースとしたディザスタリカバリー機能は簡単に利用できるが、「VMware Site Recovery Manager」のように、フェイルオーバーでは仮想マシンの起動順序を設定でき、フェイルバックもできる。本番システムに影響を与えることなくテストを実施することも可能。

 Nutanix on GCPのディザスタリカバリーサービスでは、対向拠点を自社で用意せずとも、アプリケーション/データのバックアップ(正確には複製)ができる。実質的にはレプリケーションによってユーザー企業のアプリケーションがNutanix on GCP上に再現されているのと全く変わらない。

 つまり、ディザスタリカバリーサービスを利用していて、Nutanix on GCP側でアプリケーションを立ち上げ、ユーザー企業のデータセンター側での運用をやめれば、リフト・アンド・シフトが完了したのと全く同じことになる。

 何を言いたいかというと、パブリッククラウドを自社の既存システムの移行先として検討する企業の中には、いくらVMwareなりNutanixが双方で動いていて、運用の変更もなしに移行できるといわれても、「本当に問題なく移行できるのか」あるいは「移行先で良好に動作するのか」という不安から、次の一歩を踏み出せないというところがあると考えられる。

 そうした企業に、まずディザスタリカバリーサービスを使ってもらう。そうすれば、「あなたの会社のシステムはもう、オンプレミスとパブリッククラウドのどちらでも動かせますよ、しかも、いつでもオンプレミスに戻し、さらに再びパブリッククラウドに移行することもできます。心配なら気の済むまでテストしてください」といえるようになる。結果として一部の企業は、自然にNutanix on GCPを、既存システムのためのインフラの選択肢として取り入れてくれるようになる、という計算があると考えられる。

 しかもNutanix on GCPに移行したシステムについては、機械学習やコンテナベースのアプリケーション環境をはじめとした、GCPのサービスとの直接的な連携ができるようになる。また、Googleは機械学習やコンテナベースのアプリケーション環境をハイブリッドで使ってもらいたいと考えている。促進策の1つとして、Nutanixのプラットフォームは自然に当てはまる。

マルチクラウド管理ツールとしてのCalmの意味

 「オンプレミスかパブリッククラウドか、パブリッククラウドならどこがいいか」。この問題を考え始めるときりがない。アプリケーション単位で考えなければならないし、パブリッククラウドは使ってみないと分からない点もある。既存アプリケーションを移行してみたところ、期待したパフォーマンスや可用性、コストではなかった――。こうした後悔をしたくないために悩んでいるIT担当者は多いはずだ。

 Nutanixは、このような悩みからIT部門を解放すると宣言していた。2017年中に提供開始予定の「Nutanix Calm」で、これを実現に近づけようとしている。

 Calmは、大きく分けて2つの側面を持つ。1つはApp Store的な機能で、Enterprise Cloud Platformのユーザー組織にアプリケーションカタログを提供。「ワンクリック」(実際には幾つかのパラメーターを入力するなどし、数クリックが必要)でインストールできるようにする。この機能は、いわゆるアプリケーションだけでなく、ファイアウォールなどのサードパーティー製品を「ワンクリック」で、ユーザーが利用中のEnterprise Cloud Platformに統合するための統合ツールとしての役割も果たす。

 もう1つの側面はマルチクラウドデプロイメントツールだ。ユーザー組織は、アプリケーションカタログで選択したアプリケーションを、オンプレミスのEnterprise Cloud Platform、AWS、Microsoft Azure、(ネイティブの)GCP、そしてNutanix on GCPのどれで動かすとどれくらいのコストになるのかを比較した上で、望みのプラットフォームに導入できる。

Calmはアプリケーション視点の自動化ツール。マルチハイパーバイザー、マルチクラウド対応で、アプリケーションをこれらから切り離し、ポータブルにする

 さらに、当初選択したプラットフォームで満足に足る結果が得られなければ、別のプラットフォームに移行することもできるという。このように企業向けアプリケーションをポータブルなものにできれば、IT担当者にとってクラウドへの移行は、「一度だけの賭け」ではなくなる。

 関連してパンディ氏は今回筆者に、Google Cloudとの提携ではKubernetesにも注目していると語った。コンテナレベルでのアプリケーションポータビリティが実現することで、「新しいアプリケーション」についても、オンプレミスおよび異なるパブリッククラウドのいずれで動かすのがいいのかを比較検討し、運用を変えることなく移行できる可能性が生まれるからだ。

 ただし、「非破壊的でありながら破壊的になれるかどうか」という点でいえば、Nutanix on GCPはこれに当てはまるが、Calmはどちらかといえば「破壊的」に寄っている。Enterprise Cloud Platformは企業におけるITインフラの運用を大きく変えられる存在であることを証明しつつあるものの、アプリケーションの導入・運用をCalmのようなスタイルで行うことには、抵抗を感じる人たちも多いのではないだろうか。こうした人たちにどう使ってもらうか。

 NutanixはNutanix on GCPでディザスタリカバリーが既存アプリケーションのパブリッククラウド移行となるのと同様な「自然さ」を、Calmについても提示できるだろうか。これが次に向けた同社にとっての重要な課題になると考えられる。

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