残業代ゼロでもアイデアで“稼ぐ”方法――未来工業(前編)“有給&残業”攻略法

「社内規則や環境を変えたいなら、自分で考えてほしい」――岐阜県にある未来工業の残業、休暇への取り組みがおもしろい。前後編2回に渡って紹介する。

» 2009年05月28日 18時00分 公開
[塙恵子,Business Media 誠]
photo 未来工業本社(岐阜県)

 「残業ゼロ」「71歳までの“フレックス定年制”」「雇用形態は正社員のみ」――筆者は耳を疑った。みなさんはそんな会社が岐阜県にあることをご存じだろうか?

 会社の名は未来工業。電気設備資材、給排水設備、ガス設備資材の製造販売を行っている会社だ。岐阜県にある本社のほか、営業所、工場などが全国各地に点在している。

 創立44周年を迎え、社員数は約780人(2009年5月現在)。契約社員、パート社員などの非正規雇用は行わず、正社員のみが働いている。給与はシンプルに年功序列。定年退職は60から71歳の中で自分で決められる。60歳を過ぎても、60歳の時の給与が支給されるという。

 また製造業にもかかわらず制服は一切ない。「制服代として年間1万円を補助し、着たい服を着て仕事をしてもらう」(未来工業)。未来工業の休暇取得や、残業削減に対する取り組みがまたおもしろいのだ。

残業は原則的に“禁止” でもどうやって?

 残業は基本的に“禁止”だ。つまり残業時間はゼロである。

 職種を問わず就業時間は、午前8時30分から午後4時45分まで。昼休みの1時間を除いた7時間15分間で、1日の仕事を済ませることが原則となる。ただし1カ月分の労働時間を自己申告する制度で、タイムカードなどのシステムはない。

 残業削減への取り組みはおよそ20年前から始まった。導入当初は徹底が不十分で、職種によって偏りがあった。「残業が黙認されている状態で、“残業ゼロ”にはほど遠かった」(未来工業)という。残業を黙認したために、労働時間が増えて売り上げも増したが、残業代が利益を圧迫して、経常利益が減る事態が発生したこともあった。

 この事態を見て、4〜5年前全社的に残業ゼロを強化する方針を決め、毎月行われる幹部会議で労働時間の“現状”を報告することになった。

 全社的に“残業禁止”という方針を掲げたことで、各営業所、工場の意識が徐々に変わってきた。やはり“禁止”が前提となれば、各職場で残業をしないための策を考える必要がある。「本社は戦略を立てるだけ。戦術はそれぞれの職場で考えてもらう」(未来工業)。残業をゼロにするために作業工程数を見直し、作業の効率化につながった例もある。

 残業ゼロの取り組みが浸透するまでに半年から1年を費やした。この間、全社的に周知徹底したことも成功の要因だが、残業を減らすために業務改善のアイデア出しに力も入れた。

500円でアイデア買います

 業務を改善するアイデアなどを1件提案するごとに、500円を支給する社内制度を用意している。

 社員には課題も解決する能力も必要と、参加賞の意味合いで500円を贈るそうで、会社の製品に関することでも、社員食堂のメニューに関することでもアイデアはなんでもいい。

 参加賞の500円以外にも、アイデアが採用されれば最高で3万円、年間200件以上提案すると15万円がもらえる。現金で支給されるため、おこづかい代わりに応募する人も多く、会社全体で年間1万件前後の提案があるそうだ。オフィスや労働環境の改善案が多いが、中には商品の不良品を100%発見できるシステムを考案し、実際に未来工業の各工場に導入した例もある。

 「社内規則や環境を変えたかったら、自分で考えてほしい」(未来工業)。このアイデア募集制度には、こんな意味が込められている。もちろん、「今月は趣味にお金をかけすぎた」――そんな社員が利用したっていい。

クラブは約70 部員は数人から

 社員の趣味を奨励する未来工業には約70もの部活がある。ゴルフクラブ、釣りクラブ、サイクリングクラブなど種類もさまざま。数人だけのクラブもあるが、活動費として1クラブにつき毎月1万円ずつ支給している。

 残業がゼロのため、仕事が終わった後に活動するところも少なくない。確かに午後5時前に会社が終われば、その後活動することは十分に可能だろう。それに、好きな“部活”が午後5時から始まるとなれば、「早く仕事を終わらせなければ」というインセンティブになりそうだ。


 「退職は60から71歳の間で選択」「着たい服を着て仕事をする」「労働時間は自己申告」「アイデアは何でも買う」など、社員に自由度を与える未来工業。この狙いは一体何なのか、休暇への取り組みとともに後編でを見ていきたい。

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