ソフトキーに、キルティングのようなダイヤモンド型のパターンを採用し、女性らしいエレガントなデザインに仕上げた「W61PT」。女性を強く意識したこの端末は、ターゲット層の好みを徹底追求したデザインを採用することで、ほかのWIN端末とは異なるテイストの端末に仕上がった。
初のWIN端末を投入するにあたり、韓Pantech&Curitel(以下、パンテック)はどんな戦略のもとにW61PTを開発したのか。パンテック・ワイヤレス・ジャパン統括の木村一氏に聞いた。
パンテックはこれまで、「A1405PT」(2005年秋発売)、「A1406PT」(2006年秋発売)、「簡単ケータイ A1407PT」(2007年秋発売)など、1Xシリーズのローエンドモデルの端末をリリースしており、W61PTはパンテック初のWINとしてデビューした。このW61PTを企画するにあたって木村氏は「パンテックという会社が、日本の市場でどうあるべきなのかというところから考えた」と話す。これまで扱ってきたローエンドの1X端末はコンセプトが明確で、迷いなく開発できたが、WINシリーズは供給メーカーの数が多く、競争が激しい。さまざまな国内メーカーがひしめくWIN端末の中から選ばれるには、特徴をどう出すかが非常に重要になる。
「日本のメーカーの後ろをついていっても特徴は出せないし、それほど成果は上がらないと思いました。主力のWINシリーズで、我々が日本の市場に入り込むためにどうするか。そう考えたときに、内容を説明するよりは、“見て何か違うもの”と感じてもらうことが一番大きなポイントではないかと思いました」(木村氏)
特徴を1つ1つ説明し、理解してもらうのでは時間も手間もかかる。それよりも見ただけで「あれ? ちょっと違うね」という印象を与え、手に取ってもらえるデザインを重視した。パンテックが韓国や海外で展開してきたテイストをベースに、日本のスタイルにとらわれない自由なデザインを市場に持ち込もうという発想から生まれたのがW61PTというわけだ。
デザインに加え、サイズも重視したポイントだ。「日本のメーカーのように、最先端の高機能をいきなりWINの1号機から全部入れ込んでいくというのは、やはりハードルが高い。そこで、ベーシックな機能をきちんと押さえ、デザインとコンパクトなサイズで差別化しようと考えました」(木村氏)
通話とメールがメインでワンセグやおサイフケータイを必要としない人や、ほかの人とは違う、ちょっとおしゃれなケータイを持ちたい人も相当数いると判断したことから、こうしたユーザーのニーズを汲んでコンパクトさを追求した。
「こういうニーズのユーザーは、少ないわけでもないので、サイズはコンパクトに、デザインもおしゃれで少しとがった感じにしました。発表会や代理店などで紹介すると、思った以上に『中高生マーケットにいいのでは』と言われました。男性も女性も感想の9割以上が、『かわいい』というものでしたね」(木村氏)
“コンパクトで、見た目が日本メーカーの端末と明らかに違う”というコンセプトを追求し、いくつかの候補の中から選んだものがアクセサリー風のデザインだ。違いを感じさせるのが、フロントの十字キーやソフトキー周り。キルティングのようなデザインの中にキーを溶け込ませ、あえて“キーに見えない”ように仕上げた。
「ケータイというと、やはりキーです。キーがあるからケータイに見える。だから、パッと見て強い印象を残すには、“キーがキーに見えないこと”が一番かなと思ったのです」(木村氏)
“これは何だろう、どこにキーがあるのか?”と思わせるデザインは、一般的なものづくりのセオリーどおりではないが、“分かりやすく、迷わず押せるキー”が求められている中、あえてデザインでキーを隠すという逆転の発想を取り入れた。
「ソフトキーがキーに見えないように処理したことで、すごくシンプルなイメージを出せたのではないかと思います」(木村氏)。
また、W61PTは女性をメインターゲットにした端末。女性のバッグではキルティングや型押しのデザインは定番で、自分の持ち物と並べても自然になじむ。小物やアクセサリーなどと合わせても違和感がなく、バッグから出したときにも印象に残るデザインだ。
しかし、意欲的なデザインは、発案されてもなかなか商品にまで到達しないともいわれる。さまざまな意見に左右されて丸くなり、中途半端になることも多い。W61PTでも、ダイヤモンド型のキーそのものには社内でも賛否両論があったというが、この端末に関しては「やっちゃえ!」という勢いが後押しして、初期のデザインどおりの端末に仕上がった。
「ある意味、日本市場を分かっていないので(笑)デザイナーがいいと思ったものを、スタッフに最初に見せて、『これ、違うね』といってくれたテイストをそのまま生かしました。普通はいいと思っても議論を進める中で、“押しにくい”とか、“キーに見えない”ことをコンセプトに据えているにも関わらず、“やっぱりこれではダメだ”という結論に落ち着きがちです。しかし、今回はそんなことはありませんでした」(木村氏)
ちなみにauの担当者に見せたところ、いくつか提案したデザインの中でこの端末に即決したという。心配したのはデザイン案どおりのテイストが出せるかどうかだったが、「仕上がりには満足している」と木村氏は胸を張る。
実際にダイヤ型のキーを押してみると、押しにくさを感じることはなく、各種キーの配置についても一般の端末と同じなので、操作に困ることもなかった。クリック感もカチカチと気持ちいい。
W61PTは機能的にはベーシックで、目を見張るような高機能を搭載しているわけではないが、カメラの特殊効果は非常に面白い。普通、カメラの特殊効果は多くて7、8種類だが、W61PTには24種類もの効果が搭載されている。
「海外向けの端末でサポートしている機能を日本の端末にも持ってきました。(撮影後の写真を編集するのではなく)ファインダーで効果をリアルタイムに確認できます。中でも、『色鉛筆』や『鉛筆』が面白いと思います」(木村氏)
一般的な特殊効果は、撮影した画像を編集する際に使われるが、W61PTの特殊効果はファインダーで見ながら確認できるので、身近にあるものをファインダー越しに見るだけでも楽しめる。例えば、人の顔をかざすと、表情の変化にも追従するなど、ごく普通のものも、特殊効果をかけて見ると新鮮な驚きがある。
「カメラも、最初にちょっと使って、そのうち飽きてほとんど使わなくなる。付いている機能を、少しでも楽しく使ってもらいたいので、こんな工夫しています。カメラも“こういう使う方ができるんだな”と思ってもらいたい。例えば『色鉛筆』なら、ただの風景やカップでも自分でデッサンしたような写真が撮れます。“壁紙をちょっと違うものにしたいな”と思ったときに使ってみてほしいですね」(木村氏)
W61PTはコンパクトさやシンプルさ、デザイン面ではよくできた端末といえるが、日本メーカー製の端末と比べると、スライド連動機能が充実していなかったり、おサイフケータイやワンセグに対応していなかったりと、物足りない部分があるのも事実だ。木村氏は機能面の改善については「やれる体制はある」と意欲的だ。
「おサイフケータイの対応にしても、KCP+が充実してくれば、それでサポートしてくれる。改めて我々が何かしなくてはならないということはないので、KCP+がプラットフォームとしてこなれてくれば、新機能も搭載しやすくなるでしょう」(木村氏)
また、同社ならではの強みについては海外向けに多彩な端末を投入している点を挙げる。「日本だけでやっているメーカーとは違って、全世界でやっていること。日本にはないテイストのGSM端末やスマートフォンなどの端末もたくさんあります。それをそのまま日本に持ってきて売れるかといったら、それはまた別の問題ですが、海外で展開している端末を、機が熟したときに持ち込みやすいと思います。今回はデザインで今までにないものを出しましたが、こういったことは随時、やれると思います」(木村氏)
1Xシリーズや簡単ケータイで評価され、W61PTの動きも「思ったよりも好調」としながらも、現段階ではまだ日本の市場に「根づいていない」というパンテック。主力シリーズのWINでどこまでユーザーに認められ、浸透していくのかに注目したい。
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