わが社のコスト削減

「開発コスト数分の1」という幻想ネットベンチャーでもできるオフショア開発(3/3 ページ)

» 2009年08月19日 08時00分 公開
[今泉大輔,ITmedia]
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実際コストはどうなるのか

 F社からの請求は人月ベース、1人月30万円である。日本の開発会社の1人月が100万〜150万円であることを考えると5分の1〜3分の1の水準だ。ISOの認証に基づくプロジェクト管理が行われ、納期をしっかりと守る。そして仕様が正しく伝達されており、出来上がったシステムの品質もそこそこいいとなれば、1人月30万円は相当安いといえる。

 とはいえ、そこにはブリッジSEのコストが入っていない。インドで開発しているというと、「ブリッジSEはどうしていらっしゃるのですか?」という質問をよく受ける。現在、パートナーである石井大輔と2人で運営しているピーポーズにはブリッジSEはいない。わたしがその役割を担うことになった。

 過去1年半、自分がブリッジSEとして動いた時間を、リサーチャーとして勤務するC社に請求する金額で計算すると、おおむね800万〜900万円程度になる。インドのF社にこれまで支払った開発費は機能追加、新サービスであるメルPEPOの開発などを含めると、約1200万円程度。ブリッジSEを雇った場合に掛かったであろう コストは開発費の7〜8割ということになる。

 おそらくこれがオフショア開発の現実ではないかと思う。オフショア開発費そのものは低く抑えることができるとしても、間に入る担当者に相当の労力負担が生じる。一般的なオフショア開発で掛かる負荷を人件費に換算すると、開発費の6〜9割程度になってしまう。これは経験した方なら誰もが同意する現実だと思う。

 いずれにしても、オフショア開発ではブリッジSEに大きな負担が掛かり、そこがボトルネックになりがちだ。一般論としていえば、持続可能なオフショア開発体制を構築するには、経営層がブリッジSEの負担をよく理解することが第一歩だろう。

現地担当との間で生まれた「あ・うん」の関係

 インドに委託した開発は大変なところも多かったが、メリットも生まれた。F社と9カ月ほどやりとりを続けたころから、インタフェースになっているHさんとは、いわゆる「あ・うん」の呼吸ができるようになった。Skypeで電話会議を行うのは月に1〜2度で、ほとんどは電子メールと添付ファイルのやりとりだった。あとはSkypeチャットでの補足という形態のコミュニケーションにもかかわらず、こちらが平穏な時はそれがH氏にも伝わっているし、H氏がいらだっている時はそれがこちらにもよく分かる、という風になったのだ。

 H氏はどちらかといえばぶっきらぼう。仕事を実直にこなす職人という印象がある。一方でプロジェクトマネジメントについてはプロであり、システム上の課題をロジカルに解き明かす力もかなりのものである。

 その彼と、いま起こっている問題や課題を、ともに闘う実務担当者として論じ、選択肢を吟味し、決断して形にしていく。その際の呼吸の取り方が双方で「あ・うん」状態になっているわけである。距離の差、文化の差を考えると、なかなか得難い関係だと思う。

 大きなトラブルをいくつか経験したし、修羅場もあり、ケンカのような状況もあったが、現在では、F社は弊社に欠くことのできない内輪の開発部門となっている。

 大切なことをもう1つ補足しておきたい。それは、相手に非があって何か不測の事態が生じた時でも、相手の責任をぎりぎりまで追及しないことである。日本の受発注関係では普通と思われることでも、相手が別な文化に属している場合には注意が必要だろう(以前、上海で仕事をしたときにも同種のことを感じた)。オフショアの委託先がインドに限らなくともいえることである。

 また、相手がいい仕事をした場合には、ストレートな言葉で相手をほめてあげることが重要だ。日本語では適当な言葉が見つけにくいが、英語であれば「Great!」「Excellent!」「God job!」「Well done!」などなど、たくさんのほめ言葉がある。それを惜しまずに使って、相手に謝意や賛意を伝えることで、後のやり取りがスムーズに進行する。

 どのような開発会社にも得手不得手がある。現在では、仕様がはっきりとしており、しっかりとしたプロジェクト管理を必要とする部分はF社に依頼すればいいということが分かった。逆に日本人固有の細やかな感性に訴える部分は、日本の開発会社に依頼すればいいということも理解できた。


 結局、「オフショア開発にすることで、機械的にコスト削減ができる」などということはない。そこには必ず、文化、言語、そして仕様の理解の差を埋める日本側、オフショア側双方の担当者の大きな労力負担が伴う。オフショア開発を行う企業は、間に入る「人」への配慮を怠らないようにしたい。

著者プロフィール:今泉大輔(いまいずみ だいすけ)

今泉大輔

ピーポーズ 代表取締役。青森県弘前市出身。早稲田大学教育学部英語英文科中退。カードビジネス専門誌の編集長を経て1993年に独立し、1994年にメディアプラネッツ有限会社を設立。2003年5月からシスコシステムズのビジネスコンサルティング部門にリサーチャーとして常駐している。2007年7月にピーポーズを設立し、Webサービス「pepoz」と「メルPEPO」を展開。新規サービスの開発にも力を入れている。ITmedia エンタープライズの「オルタナティブ・ブログ」では「シリアルイノベーション」を執筆している。


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