企業に新たな選択肢? スマートフォン+REDFLYのモバイルコンピューティングシンクライアントの新たな潮流か

スマートフォンの画面をネットブックサイズに拡大表示し、入力もできるデバイス「REDFLY」がモバイルファンに注目されている。しかし、開発元の米Celioはシンクライアント端末として企業での利用を狙う。その展望はいかに?

» 2009年06月13日 07時30分 公開
[岡田靖,ITmedia]

 近年、多機能化する携帯電話の最先端を行く存在として、スマートフォンがユーザーを増やしつつある。スマートフォンはOfficeなどのビジネスアプリケーションを搭載し、PCに近い機能性や拡張性を持つ。ある程度の業務用途であれば、PCを使わなくてもスマートフォンで完結できるレベルにまでなった。

 しかし、スマートフォンは携帯電話の延長上に位置付けられることが多く、PCに比べて画面サイズが小さく、入力しづらいといった点が課題だ。スマートフォンを業務端末に導入している企業は、スマートフォンの利便性やコストパフォーマンスを評価する一方、「画面サイズや入力方法に慣れなければいけない」「長文入力は負担」「年配社員には使いづらい」といった意見も挙げている。

 こうしたスマートフォンの課題に対して、米Celioはスマートフォンの画面を拡大表示し、キーボード入力などをできるようにしたデバイス「REDFLY」を開発した。国内では、以前からモバイル機器の愛好家を中心に並行輸入などで登場していたが、Celioは5月から正式販売を始めた。

REDFLY REDFLYのMobile CompanionにWillcom 03のPowerPointデータを表示したところ。一見するとネットブックだが、画面は隣に置かれたスマートフォンの画像を表示しているだけだ。国内モデルは800×480画素の8インチ液晶やキーボード、タッチパッドを搭載。8時間の連続駆動ができ、重さは約900グラム。USB経由でスマートフォンに給電もできる

 REDFLYには「Mobile Companion」と「Mobile Viewer」の2つの製品がある。Mobile CompanionはノートPCに形状が似たハードウェア製品であり、Mobile ViewerはPCにインストールなどして動作するソフトウェア製品だ。スマートフォンとREDFLYは、USBケーブルもしくはBluetoothで接続する。完了すると、スマートフォンの画面がREDFLYに表示され、キーボードやタッチパッド、もしくはマウスで入力できる。スマートフォンのインタフェースを拡張する周辺機器という位置付けだ。

新たなシンクライアント?

 REDFLYは、スマートフォンに慣れたモバイルユーザーの間で高く評価されている。しかしCelioは、「スマートフォン+REDFLY」がセキュリティと生産性を両立する企業用端末にもなると訴求する。Celio日本事務所の浅井政浩代表は、「REDFLYを使えば、まず“スマートフォンは小さすぎて使いづらい”という不満の声を解消できる」と話す。

浅井氏 日本代表の浅井氏。Celio以前はセキュリティ業界やチップセット業界に在席し、企業向けクライアント機器に明るいという

 例えば、米国テネシー州のメンフィス市警察はREDFLYを1200台採用した。警察官はスマートフォンを巡回報告システムや署の犯罪者データベースなどへのアクセスに利用していたが、画面やキーボードが小さいために不満が募ったという。システムに入力するのが手間になり、詳しい報告が寄せられないといった課題があった。スマートフォンにREDFLYを追加して、報告入力が簡単になり、仕事の処理時間が短縮したという。

 浅井氏は、「すでに10社ほどの企業がシンクライアント端末としての使い道を試している。もし本格採用すれば数千台規模になる顧客もおり、システムサービス会社ともシンクライアントソリューションとしての展開を検討中だ」と、企業向け製品としての展望を語る。

 スマートフォンが企業に受け入れられる背景には、PCと親和性の高いビジネスアプリケーションが備わっていることに加えて、PCよりも持ち運びが容易だ。通信機能も内蔵するため屋外で業務をするのに適しており、ブラウザアクセスやリモートデスクトップなどの機能を使ってシンクライアントようにシステムへアクセスすることで、セキュリティを確保できる。また、Citrix XenAppなどではスマートフォンに対応し、本格的なシンクライアント端末としても運用できる。

 浅井氏によれば、REDFLYを併用することでスマートフォンでもノートPC近い操作性を実現し、モバイル型のノートPCやシンクライアントの代替手段になる可能性があるという。コスト面やセキュリティ面でも、従来のPCベースのソリューションに比べて優位だと強調している。

 「REDFLY Mobile Companionの価格は3万5000円程度で、スマートフォンの本体価格を8万円程度とみても、合計で12万円程度だ。PCであれば端末価格に加えて、各種セキュリティ対策ソフトや導入・設定に伴う作業コストも発生する」(浅井氏)。また、通信回線も1つで済む。屋外でノートPCを使って業務する場合、通常はデータ通信端末と携帯電話を持ち歩くので2回線が必要になる。「スマートフォンとREDFLYであれば、スマートフォンの1回線ですべて済む」(浅井氏)

 セキュリティ面ではスマートフォンがPCに比べて小型・軽量であることから、盗難や紛失、故障などが起きやすく、情報漏えいのリスクも高い。しかし、REDFLYは画面表示と入力だけの機能に特化しているため本体に情報が残らず、盗難や紛失に伴う情報漏えいリスクは低い。「もちろん、スマートフォン本体にはPCを同じように対策が必要だが、遠隔操作で端末をロックしやり、データを消去したりできる対策はPCよりスマートフォンの方が進んでいる。その点でも情報漏えいに対するリスクは低いだろう」(浅井氏)

 先に挙げたように、REDFLYは導入が容易である点も大きなメリットになると浅井氏。USBケーブルで接続すればすぐに使用でき、Bluetoothでワイヤレス接続する際には初回にペアリングという相互認証が必要になるが難しい操作ではないという。

 「例えば、フリーアドレスのオフィスで社内はノートPCを使うが、外出時にはスマートフォンを利用し、REDFLYを持ち出して出かけるスタイルも可能になる。スマートフォン以外に持ち出し用の機材を個々の従業員に支給する必要がなく、端末の管理コストも抑えられるだろう」(浅井氏)


 スマートフォンは、モバイル機器ファンや企業ばかりではなく、一般の個人ユーザーにも広がる気配をみせている。「最近では大学生が携帯電話だけでリポートを作成し、提出するケースもある。スマートフォンとREDFLYであれば、PCほど高価ではないので学生への浸透も期待できる」と浅井氏は話す。

 しかし、REDFLYに対応するスマートフォンはMicrosoftのWindows Mobileを搭載する一部機種にとどまる。スマートフォンであれば、どの機種でも使えるわけではないというのが今の課題だ。

 このため、同社では国内で発売されるスマートフォンに対しても動作検証などの必要な開発を進めているという。すでに提供済みのREDFLYでもドライバの追加インストールやファームウェアもアップデートで利用できるようになるという。Windows Mobile以外のプラットフォームにも対応を進めており、AndroidやBlackBerryでの早期対応を急いでいる。「画面の解像度や入力方法の拡充など、REDFLY本体も積極的に進化させていく」と浅井氏は話している。

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