個人情報保護法が生んだ新たな問題――一橋大の堀部名誉教授RSA Conference 2009 JAPAN

2005年の個人情報保護法の施行以後、企業や公共団体における個人情報の取り扱いは繊細な課題となった。同法の立案にも関わった一橋大学名誉教授の堀部政男氏は、日本における個人情報保護での課題を指摘した。

» 2009年06月11日 12時58分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 個人情報保護法が施行された2005年4月以降、企業や公共団体などにおける個人情報の管理が繊細な課題となった。同法の立案にも関わった一橋大学名誉教授の堀部政男氏は、海外とは異なる日本の個人情報に対する意識がさまざまな問題を生んでいると指摘した。

 堀部氏は、東京都情報公開・個人情報保護審議会の座長を務めるなど、長年同分野の研究に取り組み、政策や法規制などの立案、提言などに取り組んでいる。

 個人情報を取り巻く最近の問題では、グーグルのストリートビューが代表的。同社がインターネットで公開した画像に対するプライバシー保護が十分ではないとして消費者らが問題提起し、都情報公開・個人情報保護審議会の場で議論が交わされた。同社は、最終的に撮影時のカメラ位置を下げる、画像処理を徹底するという対策を示した。

 堀部氏は「一定の評価ができる内容だった」と述べる一方、ストリートビューを巡るケースを含めて、国内では個人情報に対する保護意識が複雑な問題を生んでいるという。

個人情報を扱う意識

 堀部氏は、個人情報の保護を議論する上で「国際レベル」「国家レベル」「地域レベル」の3つの点を考慮する必要があると指摘する。

 「この3つを調和させることが最も重要になる。日本では1970年代に一部の市町村で個人情報を保護する条例が生まれたが、個人情報保護法によってようやく国際レベル、国家レベルで議論できる基礎ができ上がった」(同氏)

 個人情報保護法は施行こそ2005年だが、本格的に議論され始めたのは1990年代からで、現法の立案議論も1999年にスタートしている。この間、個人情報保護に関する法律の議論は、特にマスメディアから「報道の自由を妨げる」などの理由で反対論が展開された。

 同氏によれば、海外では1960年代から欧州で個人情報を適切に扱うための議論や法整備が本格化し、1970年代からは欧州と経済的なつながりの深い米国で同様の動きが始まった。日本はこれに遅れる形となり、同氏は「まず日本としての基本概念を明確にする、現代社会に必要な基盤整備、地域レベルや企業レベルでの適切な保護環境の構築などを目指した」と、個人情報保護法の狙いを示した。

 しかし、個人情報保護法は多くの企業や組織に対して、個人情報を取り扱うことにマイナスイメージを植え付ける結果になったという。「個人情報に対する欧米の意識は、基本的に有効活用していくというもの。情報は社会全体のものであり、だからこそ適切に保護しなければならないという意識が生まれた」(同氏)。国内では個人レベルで過剰な保護意識が生まれる結果になり、個人情報が求められた場合に自己保身と受け取られかねないほど、厳しく抵抗する人もいる。

 「個人情報保護について正しく理解されておらず、混乱が深まっている」(同氏)

あまりも多すぎる課題

 グーグルのストリートビュー問題以外にも、日常的に発生している個人情報の漏えい事故や、社会的な事件における報道や当事者の対応といった場面で、個人情報の取り扱いを巡るトラブルが絶えない。

 例えば、最近では新型インフルエンザ感染者の個人情報について、関係者が自治体に詳細情報を求めても条例やガイドラインを理由に知らされず、かえって混乱をきたす事態になった。感染状況を報じるメディア側でも、感染者個人の情報をどの範囲で公表するかについて見解が分かれた。

 「法律では個人情報の公開に原則として本人の同意が必要になるが、施行直後に起きたJR宝塚線の脱線事故における被害者の公表で混乱が生じた(怪我や死亡などで公開に対する意思表示ができないという問題)。ガイドラインなどでこうした特別なケースで同意なしの公開を認めるようにしたが、新型インフルエンザ問題では過去の経験が生かされなかったという声もある」(堀部氏)

 企業で多発する情報漏えいでも、当初はメールアドレスが漏えいしただけでも大騒ぎとなるケースが相次いだ。その後、政府の指針によって個人情報は氏名や生年月日など生存する人物を特定する内容との見解が出され、今では大きな問題となることは少ない。

 堀部氏は、「情報技術やネット社会が進展すれば、今後もこうした課題は生まれる。個人情報の取り扱いに対する明確な答えはなく、さまざまな例外がある」と話し、個人情報の取り扱いに対する意識などを含めて議論する必要性があると指摘している。

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