耐えながら攻める――アウトプットを最大化する情報基盤「2009 逆風に立ち向かう企業」カシオ(1/2 ページ)

カシオの矢澤篤志業務開発部長は、厳しい経営環境の中で攻める姿勢を保ち続けるための情報基盤を整えたと話す。

» 2009年01月07日 08時00分 公開
[聞き手:大西高弘,ITmedia]

 今回の不況はこれまでのものとはまるで違う――。そういう表現をする人は多い。確かに未曾有の危機であることは衆目の一致するところだ。多くの企業が景気悪化の「暴風雨」にさらされている。日本を代表するグローバル企業、カシオ計算機も例外ではない。同社の執行役員で業務開発部長の矢澤篤志氏も100年に一度と言われる危機に警戒感を強めている。しかし、レーガン政権が誕生した1981年にカシオに入社した矢澤氏は、ユーザーサイド、IT部門サイド両方の立場で好不況の波を経験してきたCIOの1人だ。そんな経験豊かなグローバル企業のCIOがこれから打つ「一手」とは何なのか。

「効率化だけでなく、アウトプットの最大化も意識すべき」と話す矢澤氏

ITmedia ここ最近で矢澤さんが注力してきた仕事はどんなことでしょうか。

矢澤 一つには販売、物流、製造、調達といった会社の機能をバリューチェーンとしてどのように最適化するかということ。そしてもう一つは、グローバルな企業活動の情報をいかにタイムリーに吸い上げ、経営の意思決定につなげていくかということ。つまりマネジメントサイクルの効率化ですね。

ITmedia バリューチェーンと表現したものは、サプライチェーンと呼んでもいいものですか。

矢澤 そうですね。これまでのITの進化の過程は各部門がそれぞれに最適な仕組みをつくり上げるという「部分最適」の流れだった。それを「全体最適」にトランスフォーメーションしていくという取り組みを続けてきたわけです。バリューチェーンの最適化とマネジメントサイクルの効率化には、業務改革が必要になります。そうしたベースとなるものがあって、全体最適のためのIT基盤づくりの青写真が見えてくるということだと思います。

ITmedia 青写真の基礎部分となるのが、1997年に稼働したERPのビッグバン導入ということでしょうか。

矢澤 97年から2004年ぐらいまでの間に基幹システムの構築とグローバルな標準化を進めてきました。その後、仮想化技術を活用したサーバ統合を進め、アプリケーションを活用する統合基盤をSOAの考え方を活用して構築していったというのがこれまでの流れになりますね。

ITmedia サーバ統合はかなり進んでいるのですか。

矢澤 22台あった基幹サーバを5台に集約しています。また各部門が持つサーバは全体で約1000台あったものを500台にする計画で進めています。

ITmedia 仮想化技術を応用したとのことですが、設定などはスムーズに進んだのですか?

矢澤 最初は予想通りのパフォーマンスが出ずに苦労しました。ベンダーと共同で実験環境を構築して、試行錯誤を重ねていきました。目標の15%ぐらいしか出なかったパフォーマンスを、問題点を洗い出しながらツールを使うなどして解決していきました。これが06年ころのことです。やはり新しい技術を活用するときには、準備に時間をかけていかなくてはなりません。サーバ統合の目的はコストのミニマム化と内部統制への対応が挙げられます。部門ごとにサーバがあり、バラバラに運用されている状況では、セキュリティリスクも高くなり、IT基盤の全体最適化への障害にもなります。

ITmedia SOAを活用した基盤づくりにも相当準備が必要だったのではないですか。

矢澤 ERPだけでは、業務全体をカバーすることにはならないので、他の機能を受け持つパッケージも含めてサービスの切り出しをしていく必要がありました。パイロットプロジェクトをいくつも走らせ、切り出しのあり方、ユーザーインタフェースの標準化の方法などをグローバルレベルで考えていったのです。

ITmedia グローバルレベルで標準化されたIT基盤を構築することで、ビジネス上どのようなメリットがあるのですか。

矢澤 例えば海外で拠点をつくるとき、こうした共通基盤があれば販売拠点ならそれまで1年ぐらいは必要だったところを3カ月でビジネスを開始することができるようになります。生産拠点なども同様に早くなる。ビジネス上の要求に迅速に応えることができるようになるわけですね。極端な言い方をしてしまうと、端末を引いてくれば後は現地の従業員の教育をしていけばいいということになる。もちろん、拠点をフル稼働に持っていくということは、ITだけが担うことではないですが、ITインフラについてはそれぐらいのスピードアップが可能になります。仮想環境の中でのサーバの使用領域を設定し、標準化されたアプリケーションを使うことで実現できるわけですね。

ITmedia そのスピードはまさにビジネスを加速させるエンジンとなりますね。

矢澤 基幹システムの共通基盤化でこうしたことはある程度実現できます。そこに加えてSOAを使って他のアプリケーションも含め、機能の切り出しをしていったのはバリューチェーンの見える化につながると考えたからです。

ITmedia バリューチェーンの見える化によるメリットはどんなことがありますか。

矢澤 バリューチェーンのプロセスを顧客視点で構築できることです。計画、調達、生産、物流、販売という各プロセスは、それぞれの境目では人の手によって動かされています。欲しいデータを取り出したり、それを加工して、他のプロセスと連携させる際、どうしても人手がかかる。例えば、量販店のお客様が当社の営業担当者に発注をしたとします。手持ちの在庫があればそれで対応しますが、それがない場合は物流や生産部門に問い合わせて確認し、いつ注文に応えられるかを割り出します。一方でSOAによる共通基盤は、各プロセスをリアルタイムでシームレスにつなげてしまいますから、自動的に在庫の確認やスケジュールを確認することができるようになるわけです。

ITmedia そうした仕組みはすでに動き出しているのですか?

矢澤 これからですね。この仕組みをしっかりと稼働させるには、各部門での業務改革が必要になります。いままでの業務を変えていかなくてはならない。人手でつないでいた業務をどうするかということだけでも、変革が迫られるわけですから。

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