Microsoftのバルマー氏がCEOにとどまるべき理由

検索エンジン市場ではなかなかGoogleに追い付けず、スマートフォンやタブレットも順調とはいえないMicrosoft。CEO就任11年目になるバルマー氏は、このままとどまるべきだろうか?

» 2011年01月18日 15時42分 公開
[Nicholas Kolakowski,eWEEK]
eWEEK

 米Microsoftのスティーブ・バルマーCEOは現在の地位にとどまるべきだ。

 いきなりこんな話題を持ち出したのは、米eWEEKの同僚、ドン・ライシンガー氏が「Steve Ballmer's CES Performance Proves He Needs to Go」(CESでのパフォーマンスに失望、スティーブ・バルマー氏は去るべき)と題した記事(英文)を書いたからだ。その理由として挙げられているのは、米AppleのiPadに十分対抗できるタブレットをMicrosoftが開発できなかったこと、バルマー氏がWindows Phone 7の市場予測で誤った自信を抱いたこと、検索エンジン市場におけるGoogleの支配を覆す取り組みでほとんど成果を上げられなかったことなどだ。

 早い話、バルマー氏の数々の過ちについてドンはほぼ正しい指摘をしているということだ。MicrosoftはWindowsやOfficeをはじめとする主力ソフトウェアから膨大な収入を稼いでいるにもかかわらず、タブレット、検索、スマートフォンというバスに乗り込む機会をみすみす見逃したのだ。この3つの分野が2011年のIT業界を基本的に規定することを考えれば、これは途方もない過ちだと言わざるを得ない。

 さらに、ここ数年、ライバル企業の株価は大幅に上昇しているのに、Microsoftの株価はほとんど変化しておらず、まさに踏んだり蹴ったりの状況だ。これは、ある意味では成熟企業になったことに伴う結果でもあるが(年商数百億ドルの巨大企業ともなれば、爆発的成長につながる新分野を見つけるのは極めて困難だ)、それと同時に、上で述べたように、同社が新たなITトレンドをつかみ損ねたことの反映でもある。

 しかしそれは、バルマー氏を解任すべき時が来たことを意味するのだろうか。

 通常、こういったケースでのわたしの答えは「イエス」だ。一般に、株価の低迷、そして重要な製品分野で市場シェアを確保できなかったというのは、CEOを南国の保養地に引退させるのに十分過ぎるほどの理由だ。しかし、バルマー氏は間違いを犯したことに気付いているようだ。もっと正確に言えば、同氏はこれらの間違いを懸命に修正しようとしているように思える。

 先週初め、バルマー氏はMicrosoftのサーバ&ツール部門(STB)のボブ・マグリア社長が今夏に退社することを明らかにした。「WindowsとOfficeが日常語になる一方で、当社のサーバ&ツール部門は静かにかつ着実に成長し、サーバコンピューティングの分野で揺るぎなきリーダーになった」とバルマー氏は社員に宛てた1月10日付のメールに記している。「当社の成功を礎として、クラウドコンピューティングの時代に向けて前進する準備が整った」

 バルマー氏は「事業全般および当社の成長を加速するのに必要なことは何か」について先にマグリア氏と話し合い、「STBに新たなリーダーを据える時が来た」という結論に達したようだ。

 Microsoft Watchの記事(英文)で既に述べたように、Microsoft在籍20年のマグリア氏に対して、同氏の解任に際してバルマー氏が選んだ言葉と戦術は必要以上に残酷だったように思える。

 とはいえ、バルマー氏はSTBに関して大きな計画を抱いているようだ。それは、同部門をMicrosoftの広範なクラウド戦略に沿うように改革するというものだ。バルマー氏の電子メールによると、少なくとも同氏の見方では、マグリア氏はその統合を推進するのに適任ではなかったようだ。だからマグリア氏を排除したのだ。これもCEOの仕事の1つだ。それはあまり楽しい仕事ではない。

 バルマー氏はこのところ、社内人事改革をトップダウン方式で進めており、今回はマグリア氏がその対象になったのだ。2010年10月、Microsoftは重要部門に3人の新社長を社内から指名した。彼らは、昨年1年間にわたって続いた一連の人事異動で同社を去った幹部の後継者となる。元チーフソフトウェアアーキテクトのレイ・オジー氏およびビジネス部門のスティーブン・エロップ元社長はともにMicrosoftを退社した。エロップ氏はNokiaのCEOに就任するためというのが理由だが、オジー氏の退社理由はまだ公式には明らかにされていない。経営陣の顔ぶれという点では、Microsoftは1年前から大きく様変わりした。

 またMicrosoftは、スマートフォン市場への再参入を果たすために何億ドルもの資金を注ぎ込んでいる。Windows 7およびOfficeと同様、同社のモーションコントローラ「Kinect」の販売も依然として好調だ。Microsoftのクラウド構想はまだ実質的な収益を生み出すには至っていないが、この分野では、従来のような“俊足の追跡者”としての立場を取るのではなく、競争の先頭に立とうと同社が考えているのは明らかだ。こういった取り組みは将来、イノベーションや収益という形で実を結ぶ可能性を秘めている。

 バルマー氏はこれらの可能性の種に成長のチャンスを与えるために、少なくとも短期的には今の地位にとどまる必要があると思う。CEOの交代というのは大きな混乱を招くものだ。重役室は自分の考えを押し通そうとする幹部らで埋まり、彼らは一斉に互いに足の引っ張り合いを始めるだろう。バルマー氏が去ることになれば、スマートフォンやクラウドなどの分野でMicrosoftがようやく築き始めた勢いが消滅する恐れもある。その理由だけでも(そして恐らくその理由だけで)、バルマー氏はMicrosoftのCEOにとどまるべきだろう。

 しかし、同氏がもう少しましなタブレットPC戦略を策定することがそのための大前提だ。

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