無料化するクラウドの世界、その理由と注意点戦略コンサルタントの視点(1/3 ページ)

戦略コンサルティングファーム独ローランド・ベルガーに、情報システムの新たな姿について寄稿してもらう。クラウドコンピューティングをテーマにした3回目は、クラウドにおけるユーザーへの課金について解説する。

» 2010年03月30日 16時00分 公開
[大野隆司(ローランド・ベルガー),ITmedia]

 これまで企業のシステム構築においてクラウドを利用する際の注意点として、1回目では企業のオペレーションを劣化させるリスク、2回目ではベンダーへのロックインが進むことにより利用者側の交渉力が低下するリスクを解説しました。

 今回はベンダーにとっての注意点として、クラウド無料化の進行について、つまりユーザーへの課金が難しくなっていくことについて考えることにします。言うまでもなく、利用者としても、この傾向を視野にいれた検討が必要となってきます。

2つのクラウド

 この記事ではクラウドについて「ベンダーが所有するシステムをネットワーク経由で提供し、そのシステムを複数の顧客が利用するもの」と定義しています。無料化の解説を進める前に、クラウドの定義について少し補足しておきます。

 現在クラウドは、パブリッククラウドと称されるものと、プライベートクラウドやインターナルクラウドと称されるものに分けられています(以下プライベートクラウドとします)。パブリッククラウドとは同一のシステム(環境)を複数企業が共同利用するイメージです。システム資産はクラウドベンダーが保有し、利用者は使用料をベンダーに支払う、といった形態です。この記事では、単にクラウドとした場合、このパブリッククラウドを意図しています。

 これに対しプライベートクラウドは、1つの企業(グループ)に利用が限定されたものです。プライベートクラウドとは、従来の企業の保有するシステムに仮想化技術を適用し、複数部門/システムでシステム環境を共同利用する、といったものと明確な差があるわけではありません。プライベートクラウドでは、多くの場合、システム資産は利用企業が保有することになり、オンプレミス(自社のシステム環境)であるといえます。この点は、無料化の解説の際に重要な要素となりますので、ここに記述しました。

 それでは、無料化を進行させる要因について考えてみましょう。

避けられないコモディティ化、厳しい価格競争に入る?

 情報システムのサービスや製品が提供する機能の多くについて、利用者はベンダーの営業が訴求するほどの差を見出せなくなってきています。

 「絶え間ない機能のバージョンアップ」「データセンターの堅牢さ」「簡単な導入作業」などは、ベンダーが考えているほど、利用者には訴求しないものとなってきています。

 つまり、ベンダーの訴求点はユーザーにとって「大した差」にはならないため、利用者にとっては価格が選択基準の最上位になってきます。このコモディティ化による価格競争の流れから上手く逃れるクラウドベンダーも出てくるでしょう。

 特定業界に強力にフォーカスし、システム機能に魅力的な付加価値をつけたベンダーは、強固な顧客基盤と安定した収益を確保することが可能となるでしょう。ただ、先述したように、「使いやすい」「常に最新の機能にバージョンアップ」といった程度のものでは付加価値にはなりません。「A社のクラウドを利用すれば、(A社があらかじめ整備した)潜在顧客データが使用可能」といった、かなり踏み込んだものでなければ差別化は難しいと考えられます。

 ただ、もともとクラウドは1つのシステムを不特定多数の企業が利用するものであるため、誕生当初からコモディティ化の宿命を背負い、価格競争の波にさらされやすいサービスであるとも言えます。このコモディティ化を逆手にとって、大幅安値で攻勢をかけるベンダーも多く登場してくるでしょう。いずれにせよクラウドの低価格化が進行することになります。

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