20代の若者が、“心のキレイ”な人を食い物にしている吉田典史の時事日想(1/3 ページ)

» 2010年11月12日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

著者プロフィール:吉田典史(よしだ・のりふみ)

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2005年よりフリー。主に、経営、経済分野で取材・執筆・編集を続ける。雑誌では『人事マネジメント』(ビジネスパブリッシング社)や『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)、インターネットではNBオンライン(日経BP社)やダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社)で執筆中。このほか日本マンパワーや専門学校で文章指導の講師を務める。

著書に『非正社員から正社員になる!』(光文社)、『年収1000万円!稼ぐ「ライター」の仕事術』(同文舘出版)、『あの日、「負け組社員」になった…他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方』(ダイヤモンド社)、『いますぐ「さすが」と言いなさい!』(ビジネス社)など。ブログ「吉田典史の編集部」、Twitterアカウント:@katigumi


 「今の若い人は、40代以上の世代に比べて心がキレイ。だから給与や賞与について不満をいわない。彼らは心が満たされた世代だから」――。

 とある教育分野のNPO(特定非営利活動法人)の理事長がこう言った。彼は、自らが運営するNPOで働く20代の職員らについて語り始めた。有名私立大学で教育学を研究する50代後半の教授であるだけに、理路整然と話す。本人いわく、NPOで若き職員らと“実験的な活動”をすることで研究成果を確かめようとしているのだという。

 私は、この言葉を聞いたときにその場をボイコットしようと思うくらいの嫌悪感を覚えた。このNPOの職員は現在15人ほど。平均年齢は28歳。その大半が大学を卒業し、夢を持って入ってくるものの30歳前後で辞めていく。毎月の給与は平均で20万円ほど。手取りは17万円台になる人もいる。当然、賞与はない。これは職員数人から聞いた話だが、業務の一環で教育委員会などに行くときでも、交通費は自腹を切ることがあるという。

 劣悪な労働条件の中で部下たちを働かせておきながら、理事長は「彼らは心がキレイ」「給与や賞与について不満をいわない」などと口にする。話し合いを終えたあと、その場に同席した編集者と話すと、驚くことを言い始めた。「NPOはボランティアだから、あのような労働条件でも仕方がない」。会社という“安全地帯”に身を置きつつ、辛らつな批評をする姿はいかにも会社員らしい。

NPO職員とは商談ができない

 私はますます分からなくなった。そもそも、どの世代にも心のきれいな人はいる。その反対の人もいるだろう。さらに、お金に無頓着なことを「心がきれい」といえるのかどうか。このあたりにも疑問を感じた。そこで、NPOを始めとした社会起業に詳しい竹井善昭さんに取材を試みた。主に「労働条件を始めとした内情」「50〜60代の世代と20代との意識の差」「NPOがうまくいかない理由」などについてうかがった。

 「NPOの労働条件は民間企業と比べると全般的によくない。理事長など組織を運営している50〜60代が、“無償のボランティア”ととらえている傾向があるからだ。中には、市民運動の延長として位置付けている人もいる。ビジネスとは考えていないので、いつまでも経営が安定しない。結局、“30歳定年”と言われているように、20代の人は数年で次々と辞めていく」

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