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ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

クラウドビジネスモデルの選択肢

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数年前からクラウドコンピューティングが注目されてきましたが、2011年はクラウドの本格的導入に向けた年になると予想されています。ITベンダ各社も2年前から具体的な売り上げ目標を設定し、ビジネスの柱にし、中長期的に収益をあげるための戦略を策定し、実行に移しつつあります。

クラウドビジネスは、提供事業者から見ると、中長期的な視点で投資が必要になり、サービスを長期的に保有するというリスクも伴います。そのため、クラウド技術そのものよりも、いかにクラウドビジネスで利益を上げる仕組み、ビジネスモデルを構築できるかが、事業を大きく左右することになるでしょう。

そこで、クラウドビジネスモデルについて、改めて整理をしてみたいと思いますが、現時点で思いつく範囲でご紹介したいと思います。

クラウドサービス関連のビジネス

クラウドサービスモデルは大きく分けると、SaaS、PaaS、IaaSに分類されます。アマゾンや国内のISP事業者はIaaS事業を中心に注力しており、セールスフォース・ドットコムやグーグル、そして、マイクロソフトなどの外資系事業者は、SaaSやPaaS事業に注力していると考えることができます。

各サービスレイヤーにおいて、どのようなサービスで、どのようなユーザをターゲットとしてサービスを展開し、どの規模のユーザ数を獲得できれば、黒字化するのか、競争力のあるサービスモデルと収益モデルの構築が求められます。

クラウドデリバリー関連のビジネス

クラウドデリバリーモデルには、パブリッククラウド、プライベートクラウド、コミュニティクラウド、ハイブリッドクラウドなどがあげられます。大きくビジネス構造を分けるとすれば、パブリッククラウドのビジネスとプライベートクラウドのビジネス構造は大きく異なります。

プライベートクラウドの場合はSIビジネスの延長戦上に位置づけられるケースも多く、クラウド技術を活用したSIビジネスで個社別に収益をあげていくというビジネスも成り立ちます。

一方、パブリッククラウドのビジネスはより多くのユーザを獲得する必要があり、規模の経済(スケールメリット)が優位に働くビジネスモデルのため、世界市場に展開できている外資事業者と比べると国内事業者は苦戦を強いられる領域であると考えられます。

コミュニティクラウドにおいては、例えば自治体クラウドや教育クラウド、医療クラウドに代表されるように公共分野へのクラウド化を進めるというのは、比較的共通化できる部分も多く、導入が進むと仮定すれば、一定のユーザを確保でき利益のあげやすいモデルとなるでしょう。また、製造業などはサプライチェーンを効率化するといったような業界クラウド向けの共通プラットフォームを構築し、ユーザの囲い込みをし、システム構築やトランザクションなどで利益を上げていくモデルも考えられます。

クラウド関連技術のオープンソースを活用したビジネス

クラウド関連技術には例えば、HadoopやOpenstack、Eucalyptusなどのオープンソースが注目されています。オープンソースを活用したクラウド構築サービスなども始まっています。高機能でこれまでのシステム構築よりも安価になる場合も多く、早くからビジネスに取り込んだ事業者は、機能やバグ等も検証済みで、価格競争でも優位にビジネスを運べる可能性があるでしょう。

クラウドアセスメントビジネス

クラウドの導入にあたっては、自社のシステムに残すか、クラウド側に預けるかなど、悩まれている情報システム担当者も多く見受けられます。そのため、自社のシステムの現状を調査し、クラウド側に移行するのかしないのか、システム仕分けの作業が必要となります。ユーザにアプローチをしていくためには、このクラウドアセスメントに関するコンサルティング対応ができれば、ユーザのシステム環境を把握することができ、ビジネスとしての入り込みが容易になると考えられます。

クラウドマイグレーションビジネス

クラウドの導入においては、ゼロの状態からパブリッククラウドを導入するのであれば、比較的容易に導入できますが、プライベートクラウドの場合は、データセンターの集約からシステム統合、標準化、仮想化など、様々な対応を段階的にしていく必要があります。クラウドをどのようなステップで導入していったらよいのか悩んでいる情報システム部門の方も多く、クラウドマイグレーションビジネスは、事業者においては、一連の流れで売り上げが見込まれるため、中長期の大きなビジネスとなると考えられます。

クラウドセキュリティビジネス

クラウド導入にあたって、ユーザの多くが不安に感じているのは、依然セキュリティが上位を占めています。クラウド導入のメリットについては、概ね理解も深まってきており、例えば、シングルサインオンなどの認証、インターネット回線に不安があればVPN、仮想化のセキュリティ対応なども重要となります。また、セキュリティの認証取得を支援するビジネスのように、第三者によるセキュリティ評価は継続的にニーズがあると考えられます。また、セキュリティインシデントが発生した際に、対応できるような保険ビジネスも米国では進んでいると聞いています。

クラウドリソースブローカービジネス

クラウドのメリットは柔軟にコンピューティングリソースを利用できるメリットができる反面、提供事業者側は、提供するコンピューティングリソースが足りなくなったり、余ったりすることもあるでしょう。そういった事業者間のコンピューティングリソースを仲介し、事業者側に提供するようなクラウドリソースブローカービジネスも今後増えていくことが予想されます。

クラウドポータル(連携)ビジネス

ユーザ側は個別にクラウドを導入すると、アクセスする先がバラバラになり、データも分散してしまいます。そのため、クラウド間を連携させるハイブリッドクラウドが今後進んでいくと予想されています。ユーザの利便性を高めるためには、ポータル機能を持つ管理プラットフォームのニーズが高まっていくものと予想されます。

クラウドAPIビジネス

クラウドビジネスをユーザには展開していくためには、自社のクラウドサービスのAPIを解放し、API上で開発するパートナー事業者、開発者を増やし、収益をあげていくモデルが考えられます。ただし、どこまでオープンにするかは各社の戦略によって様々なので、API関連の戦略は、ビジネスの領域を大きく左右することになるでしょう。

クラウド課金ビジネス

クラウド導入後でユーザの頭を悩ませているのが、課金についてです。クラウドサービスは従量課金を採用している事業者も多く、毎月、請求金額が異なってきます。また、予算以上にリソースを利用してしまうケースや、使いこみすぎてクラウド破産をするユーザも目にするようになりました。また、請求日がバラバラであったりすると、会計処理が大変なケースもあるようです。クラウドの導入が進むにつれて課金ビジネスが注目される可能性は十分に考えられます。

社会インフラ関連のクラウド基盤ビジネス

近年注目されているのは、電力版インターネットのスマートグリッドです。スマートメーターや電気自動車(EV)の普及も期待されており、電力網をインテリジェント化するスマートシティーの構想も進んでいます。こういった社会インフラでは膨大な情報が流通するため、社会インフラとしてのクラウド基盤が重要となります。スマートグリッドは海外展開も議論が進められており、クラウドも大きなビジネスチャンスとして期待されます。

データセンター関連ビジネス

クラウドが進めば、膨大な情報量をアーカイブすることが必要となり、データセンターの需要も増加傾向にあります。世界各地でデータセンターが建設されており、日本においても政策的にデータセンター国内立地推進のための規制緩和や、自治体の誘致合戦も始まっています。データセンターはこれまで首都圏に建設されるケースが一般的でしたが、クラウドが進むと、場所を気にしないが国内のほうがいいというニーズが高まっているため、郊外型の環境配慮型クラウドデータセンターのニーズが高まっていくと予想されます。ゼネコンや空調機事業者などにとっても大きなビジネスチャンスとなるでしょう。

モバイルクラウドビジネス

スマートフォンやタブレッドに代表されるようにクラウドデバイスが多く登場し、ここ数年で、スマートフォンの利用比率がガラパゴスケータイを逆転すると言われています。LTEに代表されるようにモバイルデータ通信の高速が進み、外出先のクラウドデバイスから高速にアクセスするといったケースも増えてくることでしょう。クラウドデバイス向けのビジネスが今後大きく市場成長することが予想されます。

グローバルクラウドビジネス

クラウドビジネスの流れは世界規模で進んでいます。特にアジアなどの新興国は、インターネットや情報システムのインフラが整っていなかった地域も多く、クラウドの導入が進むと予想されています。BOP(Base of the Pyramid)という貧困層向けビジネスも先進国の事業者の参入が始まっており、クラウドビジネスにおいても大きな市場と考えることができるでしょう。

クラウド関連の投資ビジネス

グローバルクラウドビジネスと少々ダブルところがあるのですが、今後は事業者を買収し、事業領域を拡大するというアプローチが考えられます。円高も後押しし、今後さらに、日本事業者によるクラウド事業者の買収や出資などが増えることが予想されます。

コンシューマ向けクラウドビジネス

コンシューマー向けはエンタープライズ向けと若干アプローチは異なりますが、例えば、Evernoteのように一部の容量まで無料で提供し、ある容量を超えると有料になるといったように、フリーミアムのビジネスが注目されています。また、グーグルのように広告で収益をあげるビジネスもあります。また、ユーザログなどと連携し、ユーザ側にリコメンドするといったログ関連のビジネスなどもビジネスとして今後成長していくことが予想されます。

まとめ

クラウドビジネスは非常に多岐に渡っており、事業者だけをとってもアプローチが異なっていると考えられます。折を見てもう少し踏み込んで解説していきたいと考えています。2011年は各社、クラウドビジネスの収益の比率をあげ、ビジネスの柱に育てていく必要があり、どのクラウドビジネスの領域で自社の強みを活かして収益を上げられるビジネスモデルを構築できるか。クラウドビジネスにおける軸足の置き方が今後事業者の戦略の方向性を大きく左右するのかもしれません。

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