新宿駅西口で実現:大型デジタルサイネージとデジタル地図で「まるで迷路な街」問題を解決

これまでカーナビなど主に個人利用中心に普及が進んできたデジタル地図が、デジタルサイネージとの組み合わせにより、パブリックな空間のナビゲーション役を担い始めている。その最新事例を紹介しよう。

 巨大ターミナル駅である新宿駅。長い歴史の中で乗り入れる鉄道会社が増加し、地下通路も拡張を重ねてきた。東西それぞれに繁華街が広がるが、その往来は一筋縄ではいかない。普段通勤や通学で利用している人ならまだしも、初めて訪れる人で一度も迷うことなく目的地に移動できる人は、それほど多くないのではなかろうか。

 新宿駅はまた、近隣に多数の大型ホテルを擁し、海外からの旅行者が多いことでも知られる。東口にある人気の百貨店を訪れるつもりが間違って西口に出てしまって途方に暮れるといった光景は「訪日外国人あるある話」の1つに数えられるという。日本語の通じない迷える人を会話だけで正しい場所に導くことのできる人は、一体どれくらいいるだろう。

 近年、訪日外国人が急増し、この「動線の悪さ」が大きな問題となっている。対外的なイメージダウンもさることながら、ターミナル駅が迷路のようでは、内外にかかわらずユーザーに良質な体験をもたらすはずがない。日本流の「おもてなし」が注目されているが、これはおもてなし以前の問題だ。

 そして、これは単に新宿駅だけの問題ではない。都市部の公共施設やショッピングモールなどにも、程度の差こそあれ「迷路」はいくらでも存在する。

 本稿ではこの問題の解決に向けてテクノロジーの力で挑んだ事例として、新宿駅西口広場に導入された大型デジタルサイネージとデジタル地図システムの導入例を紹介する。

新宿駅西口に登場した巨大デジタルサイネージシステム

 JR新宿駅西口改札口を出て真っすぐに進むと西口広場に出る。正面は地下ロータリーだが、やや左側に2015年4月から巨大なマルチビジョンのデジタルサイネージが設置されている。設置したのは、東京都道路整備保全公社だ。

 新宿駅西口広場のデジタルサイネージ 新宿駅西口広場に設置された大型デジタルサイネージ

 同公社の公式サイトにある「公社のあらまし」には「道路空間等の有効活用による新たな価値の創出を常に目指し、事業収益は広く都民・社会に還元することにより、全事業過程において一貫して公共性・公益性を追求」するとある。新宿の駅の中でも最も多く人の目に留まるであろうこの場所に最先端の情報端末を設置することで、街全体のナビゲーション改善に挑もうとしているのだ。

石井克典氏 東京都道路整備保全公社の石井克典氏

 「5年ほど前からここに周辺地図案内板と観光やイベントなどの情報を案内するシステムを設置していましたが、老朽化しており、より使い勝手が良く視認性の高いシステムへの入れ替えを検討していました」と、導入のいきさつを語るのは、同公社 事業部 事業推進担当課長の石井克典氏だ。

 システムの導入に当たっては複数社によるコンペを開催し、日本を代表する大手家電メーカーやハードウェアメーカーも参加したが、同公社が採用したのは、地図サービス「MapFan」で知られるインクリメントPが提供するデジタル地図システムを軸とし、シャープの4Kディスプレイを表示媒体としたシステムだった。

導入のポイントは「地図」

 駅など交通の要所となる場所や商業施設において、デジタルサイネージの導入が進んでいる。掲示される情報が固定されている従来の看板や掲示板と異なり、同じ枠内に動画を含む多くの情報を掲出できるというメリットがあるからだ。新宿のこのシステムは60インチの液晶パネル12面で構成され、行政からのお知らせや東日本旅客鉄道(JR東日本)の列車運行状況などをダイナミックに切り替えながら表示している。

 また、マルチビジョンの両サイドに配置されているのが、タッチパネルによる行先案内操作が可能(多言語対応)な地図情報表示システムだ。左右それぞれに70インチ、32インチの画面を配置し、32インチの方の画面はタッチパネルとなっている。ここで目的地を検索し、位置関係を確認することができるのだ。

デジタル地図表示システム 大画面の左右には70インチと32インチの2画面によるデジタル地図表示システムを設置

 石井氏によれば、このシステムに決定した理由は、まず「操作性の良さ」そして「4Kにも対応した地図の美しさ」にあったという。そして実際、狙い通り多くの人に使われていることがデータに表れている。

 「この新しいシステムでは、利用ログの収集が可能となっています。そのログによるとシステムの利用時間は1グループ平均70秒、実際にタッチして利用している方は1日平均約200人という結果を得ています」と石井氏。MapFanで定評ある地図に加えて地下街マップも用意され、新宿を訪れる人の利便性向上に確かな感触を得ているようだ。また、外国からの訪問客も多い土地柄、「多言語への対応」も重要なポイントになったと石井氏は付け加える。

画像4カ国語対応 地下道マップも用意され、ナビゲーションは万全。また、日本語、英語、中国語(2種)、韓国語の4カ国語に対応する。写真は中国語(簡体字)表示の画面《クリックで拡大》

デジタル地図一筋20年のこだわり

 このデジタルサイネージシステムの肝となるデジタル地図を提供しているのが、インクリメントPである。国内で利用されているカーナビゲーションシステムの半数近いシェアを誇る同社の創業は1994年。20年以上もデジタル地図情報システムを手掛ける「老舗」だ。

 馬場 純氏 インクリメントPの馬場 純氏

 主に個人向けサービスのイメージが強い同社だが、実は法人向けの製品・サービスも提供している。同社第2事業部 ソリューションSE部 第3グループマネージャーの馬場 純氏は、インクリメントPのデジタル地図の特長を次のように語る。

 「今回新宿駅西口に設置されたシステム採用の要因にもなった多言語対応と、地図の美しさ、インタフェースの使い易さは、これまで当社が培ってきたノウハウが基盤となって実現されたものです。今回のシステムは日本語、英語、中国語(2種)、韓国語の4カ国語対応版ですが、当社が提供するデジタルマッピング・システムはこの4カ国語の他、年内にタイ語、インドネシア語の2カ国語が加わります」

 地図情報システムは、「鮮度」が重要な要素となる。そこでインクリメントPでは、日々の道路走行調査や各種資料からの情報収集に加え、MapFanの利用者から常に最新の情報を提供してもらう仕組みを用意している。「昨日まであったお店が閉店した」あるいは「新規に店舗が開店した」といった情報を利用者に投稿してもらうのである。寄せられた情報を確認し、地図を更新する。このような作業を長年にわたって継続してきたからこそ、同社の地図データは常に高い正確性を確保できているのだ。

 また、いくらベースとなる地図情報が正確であっても、検索性や視認性が悪ければ利用者の利便性が損なわれてしまう。そこでUI(ユーザーインタフェース)にもいろいろな工夫が盛り込まれている。その1つが表示テキストのサイズ変更機能だろう。

 最近のスマートデバイスはタッチパネル対応が標準的となり、ピンチイン/ピンチアウトが簡単にできるので、地図の拡大や縮小が自在にできる。しかし、拡大すると、画面に表示される文字も同じように拡大され、見づらくなってしまうことがある。反対に、縮小すると文字が小さくなり、読みにくくなる。このような問題を解決してくれるのが、表示文字のサイズだけを変更する機能だ。

 この例に見られるように、誰がどのような環境で利用しても検索性と視認性を確保する技術がインクリメントPの大きな強みとなっているのである。

スピード感のある開発、モバイル対応も視野に

 ただし、いかに優れた技術を持っていても、汎用(はんよう)品だけで法人向けのニーズも満たせるとは限らない。個別の要件に合わせた柔軟な開発力やカスタマイズが問われることになる。しかし、新宿駅西口のデジタルサイネージシステムにおいては、インクリメントPは「意外な底力」を見せてくれた。

 基本となる地図システムはこれまで同社が培ってきたノウハウがあり、ほとんど手を加えることなく利用できたが、新宿西口の地下道マップとアプリケーションはこのシステム用に新たに作成したというのだ。しかもわずか2カ月の間に、である。同社は、地図システムをベースにアプリケーション開発をするためのAPIやSDKといったツールも提供しているが、これら開発ツールを利用することで短期間でのカットオーバーを実現したという。この技術力、開発力の高さは、同様の地図情報システム導入を考えている商業施設運営企業や自治体などにとって、大きな魅力となるだろう。

 「公共性の高い場所での利用をさらに推し進めていただけるよう、当社はデジタル地図情報システムとデジタルサイネージの分野にこれまで以上に積極的に乗り出していこうと考えています」と、馬場氏は新たなマーケットへの参入に積極的に取り組むことを明確に語る。

 もちろん、これが完成形ではない。喫緊の課題としては、携帯端末へのデータ移動がある。例えば、サイネージシステムに携帯端末をかざすと、サイネージに表示された地図情報が自動的に携帯端末のナビゲーションアプリに引き継がれるといった仕組みは、MapFanの各サービスにおいては既に実現しているものであり、新宿駅西口のシステムにおいても、すぐにでも実現させたいという。

 2020年に向け、日本中のあらゆる都市の中心部にデジタル地図システムを備えたサイネージが設置される。そこを起点に世界中の人々が訪日の目的を果たすため、位置情報を得る。そんな風景がごく当たり前になるのはそう遠い日ではなさそうだ。

提供:インクリメントP株式会社
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