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「科学が進歩すると、それはそれで疲れる」――2026年描く「劇場版 ソードアート・オンライン」伊藤監督の“未来観”(1/3 ページ)

» 2017年05月15日 07時00分 公開
[片渕陽平ITmedia]
photo 伊藤智彦監督

 「科学が進歩すると、それはそれで疲れるんじゃないか」。近未来の技術を描いたアニメ映画「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」の伊藤智彦監督は、そんな考えを語る。

 映画の舞台は2026年。個々人の食生活データが収集され、人工知能(AI)が分析して好みを把握、それぞれの舌に合ったスイーツをおすすめする――というシーンがあるなど、日常にAIが溶け込んだ世界を描いている。そうした技術がさらに発達することを、伊藤監督はどのように思っているのか。

伊藤監督インタビュー(前編)

ARをアニメで表現する難しさ――「劇場版ソードアート・オンライン」制作裏話、伊藤監督に聞く

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近未来のAR・VR技術を題材にしたアニメ映画「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」。昨年から今年にかけてスマートフォンゲーム「Pokemon GO」が社会現象になるなど、AR技術は身近になりつつある。しかし、進化した近未来の技術を想像し、アニメの世界で描くのは容易ではないはず。架空のガジェットや技術はどう描かれたのか、その制作裏話を伊藤智彦監督に聞いた(※ストーリーの核心に迫るネタバレはなし)。


「効率化なるものには異を唱えています」

――「劇場版SAO」は、AIなどの技術がテーマになっている。こうした技術が今後発展していく中で、伊藤監督はどんな社会になってほしいと考えているか。

伊藤監督 基本的にそうした技術は、人がやることを楽にするために作られているはず。作業時間がそれまでより短くなったことで生まれる余裕を使って、考える作業をするというのが、科学進歩の歴史だったと思います。ただ、それはそれで疲れるんじゃないかなと。そんなに楽をしなくてもいいんじゃないかというのが、最近の俺の中の考えです。

 例えば、通販サイトのサジェスト機能で、商品をおすすめされても「別にいいよ」と思ってしまう。ちょっと過剰なサービスなんじゃないかと。ビッグデータとして個々人の情報を仕入れて何をしたがっているのか。可能性としては現実シミュレーションを作りたいのかもしれませんが、そこまで誰かに行動を予測されたくはないです。

――劇中では、AIが登場人物の好みを把握し、それぞれに合ったスイーツをおすすめするシーンがある。本人たちは「便利」と話していたが、伊藤監督の考えは。

伊藤監督 あのシーンは「たまたまケーキの好みが当たった」「嫌いじゃないよ」くらいの、間尺が短い瞬間だから喜べると思うんです。だから、それ以上におすすめをされると、はずれを選ばないことが「そんなによいのか」と。例えば「この映画が面白いよ」とおすすめされても「いやいや、たまには面白くない映画だって見たい」と思うんです。はずれもひっくるめて経験にしたいんです。

photo 「劇場版 ソードアート・オンライン –オーディナル・スケール-」には、AIを搭載したAR(拡張現実)アイドル「ユナ」が登場する

 効率よく何かを得るというのは、忙しい人にはいいかもしれないが、そうでないものも混ぜて体験したいなと俺は思うので、効率化なるものには異を唱えています。主題がずれてしまうので、「劇場版 SAO」の中ではそういう場面は描いていませんが。

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